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ナローポルシェや、M-HOUSEをとりまく色々な事柄を綴った不定期更新のエッセイです
第139話 RSその後ー3
私は外国にいた。目の前に一台のポルシェが停まっている。しかもナローだ。私にはその911が視界に入った瞬間に、そのクルマがあのクルマだとすぐわかった。この間といっても大分たつが、オーナーの希望もあって外国に旅立たさせたクルマだった。今ここで見ても、周辺のクルマと隔絶するというか、いわゆる圧倒的なオーラを放っていた。近くに寄って見て、日本にあった頃とボディーを含めてどこも悪化したところがないのを確認して、うれしく感じ、安堵して、誇らしく思った。そして自分がやってきていることが正しいとことだと確信出来た。
五分くらいそこで見ていただろうか。一人の男が近づいてきた。三十前のまだ青年といっていい感じだった。私は彼に話しかけた。
「このRSのオーナーの方ですか」
「ええ、そうですが」
「私は日本でこのクルマをこちらの国の方にお譲りした、このステッカーのM-HOUSEのSという者です。」
リアウインドーに貼られたステッカーを指差し名刺を差し出しながらいうと、
「そうですか」
「このRSをお譲りした方はもっと年輩の方だったのですが、その方から買われたのですか?」
とさらに尋ねた。
「僕は、○○さんから買ったのです。ポルシェの集まりに彼が乗ってきて、一目で欲しくなって譲ってくれと申し出たんです。」
私には○○さんがその人だったかどうか思い出せなかったが、
「そうですか。」
相槌を打つ感じで答えると、彼はちょっとお聞きしたいのですがと前置きして、
「このクルマはいいクルマですか?」
どうしても聞きたかったという感じで聞いてきた。
「こんないいオリジナルなクルマはまずありません。私がオリジナルを保って徹底的に修理してあります。大変すばらしいRSです。世界中探してもこれほどのものはまず無いはずです。」
「良かった、間違いなかった。」
うれしそうに笑顔でいった。そこには安堵と自らの決断が正しかったという自分に対する誇りのようなものが感じられた。
「このクルマはいくらで買ったのですか?」
思わず聞いてしまった。
「○十○万ドルです。」
彼は即座に答えた。その金額は私が前オーナーの代理人と決めた金額の二倍強だった。やはり聞かなければならないなと私は思った。
「ご職業は何ですか?」
「ITビジネスで成功しました。」
そういってから、
「どうしてこんないいクルマなのに日本で買い手がつかなかったのですか?」
と質問してきた。
「日本人にはこのクルマの金額が高く感じられたのだと思います。価値と金額が見合わなかったのでしょう。」
そう私が答えると、
「私にはこの金額の価値がこのクルマにはあると感じたから買ったのです。日本人はものの価値がわかりませんね。私のビジネスでも日本人が考えだしたものですばらしいデバイスがあります。私はそれを全て買い取り、それが今の私のビジネスのメインになっています。大変お買得でした。日本人はお金を持っているのにその価値を正当に評価出来ないので、損をしていますね。だから日本のいいものがすごく安く買えます。」
私には何だか、日本が日本人が、外国人の草刈り場になっているように感じられた。そしてそれは日本人自身に原因があるからだと。
彼がドアに鍵を差し込んで廻そうとした。

そこで夢は醒めた。ああ夢かと思った。起き上がって二階から居間に下りる途中で、近いうちにこの夢が実際に起こる、実体験するのではないかと、理由はないがただしかし確信のようなものを感じた。


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