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第202話 紙芝居『しあわせの王子』 その1
紙芝居スタート
東京のとある町の豪邸のガレージにしあわせの王子はいました。しあわせの王子はスポーツカーです。王子にはポルシェ911Sという本名がありますが、皆しあわせの王子と呼びます。でも王子にはヘッドライトやフロントガラスがなく、シートや内装もない、しあわせの王子と呼ぶには実に似つかわしくない姿です。このガレージにやってきた時のピッカピカのだれもが羨む面影はどこにもありません。
王子はまもなく解体屋さんに連れて行かれます。豪邸の主が中古部品屋さんに売る約束をしたのです。ガラスもなく内装も何もない王子は驚くほど安い金額で売られることになったのです。王子は悲しくてしかたありませんでした。王子はこの豪邸のガレージにきたころのことを思い出していました。
数年前の豪邸のガレージ
豪邸の主は朝からウキウキしていました。今日はアメリカできれいにレストアされた真っ白い1973年型のポルシェ911Sがやってくるからです。ガレージの中は念入りに掃除されてごみひとつ落ちていません。
ローダーに載ってやってきた純白の王子は、この豪邸のガレージにふさわしい、まるで新車のように光り輝いて見えました。生まれたから25年も経っているというのにです。
さすがアメリカでレストアされたものは違うと、豪邸の主は王子のあまりに美しい姿に夜になってもガレージでずっと眺めていました。そして、高かったけど買ってよかったという満足感でいっぱいになりました。
主の友だちの家に行く
休日のある日、豪邸の主はクルマ仲間に王子を見せるため高速道路に乗って出かけました。クルマ仲間の家で、主は得意満面で王子を見せました。友達は、はじめのうちは王子をたくさんたくさんほめました。主はそれはもう天にも上る気持ちになりました。でも途中から、その友達はこんなことをいいはじめました。
このクルマきれいだけどオリジナルじゃないよね。ここもここもと指をさしてオリジナルでないところを指摘しました。その数やすぐに両手の指では足りなくなり、主は数えるのをあきらめてしまったほどです。
主はショックを受けました。あまりに大きなショックでした。帰りの間中一言もしゃべりませんでした。思いもしない展開であり、まったく予期しないことであり、主の中でいろいろなことがぐるぐると回っていました。
つづく・・・
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