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ナローポルシェや、M-HOUSEをとりまく色々な事柄を綴った不定期更新のエッセイです
第22話 ポルシェな人々 その14
ポルシェにまつわる様々な人々の、本人にとっては誠に真剣な、はたから見ていると実に楽しい愉快な生態をシリーズでお話ししましょう。

知らなかった方が・・・・・

良かったのか悪かったのか皆さんにお考えいただきたいお話です。
はじめRさんはうちの変わった広告(私は変わっているとは思わないのですが)を見て尋ねてこられ、いろいろとお話をするうちにM-HOUSEを理解していただき、ナローの全塗装をうちに任されました。このクルマは実にオリジナルを保った程度のよいボディーを持っていましたが、塗装がダメでした。部分塗装では十分な効果が期待出来ないので全塗装となり見違える状態でお納めしました。

さて、ここからがこの話の本題です。Rさんは全塗装でお預かりしたナロー以外にも何台かクルマをお持ちでした。そのなかの73RSを直したいといわれうちに持ってこられました。最初ご自分でメッキのサッシ部分がキズだらけだったので交換をはじめられたのですが、どうしてもサッシの前後の、ボディーとの間のチリが均等にならず片側だけAピラーに当ってしまう、手に追えないので鈑金塗装も含めてやって欲しいとのことでした。そのとき、ドアの内側に残っている塗料の色から片側のドアは交換されているのを発見した、そのことを頭に入れておいて欲しいともいわれました。

しばらく長預りになるので、メカニックのTさんに、全体を見て方針を立てようといってチェックをはじめてもらいました。

その日の夜、メカニックのTさんから本社にいた私のところに電話がありました。
「代表、あのクルマ何といいますかちょっと変です」
何かいいにくいことがありそうに話しました。
私が
「どうしたの?かなり問題あり?」
と尋ねると
「いやーあるといえばありますよね。前側のインナーフェンダーがナローのものではありませんし、トランクルームの中の運転席の前のところが、マスターバックが付くように凹んでいるんですよね」

「うん」
Tさん
「スカットルから前がナローよりもっと新しいものに交換されているんですよね」

「どんな事情だったのか今はわからないけど、広範囲な修復が行われているってことですね」
Tさん
「そうですね、たぶんSC以降のフロントセクションをそっくりそまま交換熔接している感じなんです。その仕事もよーく見ると繋いだところがわかるんです。室内からフロアカーペットをとって、開けたままのトランクを見ると光が洩れてくるので間違いないと思います」

「弱ったね、なんてRさんにいおうか」
Tさん
「そうですよね、良く見たらフロントセクションに大きな修復が行われていますなんていえないですよね」

「そんなことストートにいったらショックで大変だよ。遠回しにいってそれと分かってくれたらいいんだけど」
Tさん
「あとは代表からいってもらうしかないですよ」

「う、うん、電話して見るよ。でも来てもらって見てもらわなければならないと思うのでその時は二人で説明しよう」
Tさん
「わかりました」
それで電話は切れました。


私はさてどう話すのがいいか、フル回転で考えました。このESSAYをお読みの皆さんは事実は事実として伝えればいいじゃないかと思っておられると思います。でも、ご自分がそう宣告された時のことを考えてください。ポルシェ好き、クルマ好きにとってこれは、例えに問題があるかも知れませんが、ガン告知と同じだと思います。どう考えても結論は出ないので、遠回し、遠回し、に言うしかないと決心を固めました。



「もしもし、M-HOUSEのSです。今日おクルマ拝見しました」
Rさん
「どうでした?やはりドアが交換されているのが問題ですか、鈑金で何とかなりますか?」

「ええ、それ以外にもいくつか問題が出てきました。近いうちにお越し頂いて現物を見ながらお話したいと思いますが」
Rさん
「行きたいのですが、なかなか忙しいので今説明願えませんか?」

「はい・・・」
「トランクルームといいますか、運転席の前側にちょっと問題が発見されました」
もう私は動転していました。
Rさん
「運転席の前側にどんな問題が出たのですか?」

「ナローの右フロントのタイヤハウスのところ、インナーフェンダーっていうんですが、そこには燃焼式ヒ−タ−かエアコンのエバポが入るところの位置に2箇所スリットがあるんですが、Rさんのおクルマにはそれがないんです」
Rさん
「う〜ん、それって、インナーフェンダーが交換されているってことですか?」

「その可能性は高いです。それと、トランクルームの中の運転席の前のところに凹みがあるんです」
Rさん
「何か鈑金したあとですか?」

「いえ、マスターバックが付くように凹んでいるんです」
Rさん
「だって、マスターバックが付くようになるのはSC位からでしょう?」

「おっしゃる通りです」
Rさん
「それってどういうことですか?」

「う〜ん、何といいますか、広範囲に修復されているというか・・・・・」
Rさん
「はっきりわかりませんが」

「フロントセクションが『そっくり違うもので交換』されている感じなのですが」
Rさん
「えーっ、それって・・・・・、早くいえば『2個一』だってことですか?」

「原因はまだ何とも言えませんが、事故か錆が考えられます」
Rさん
「いや、そんなことはないと思いますよ。確かに買う時に修復したことは聞いていますし、修復歴ゼロではないと思いますが、でもそんな大掛かりな修復ってことはないと思いますよ」
「納得出来ないな、そんなことはないと思いますよ。Sさんの見方はシビアだから、そこまで言うのかもしれないけど『そっくり違うもので交換』ってことはないと思いますよ、『そっくり違うもので交換』ってことは」

「近いうちに、お越し頂いてご覧いただけますでしょうか?」
Rさん
「平日は無理なので、今度の土曜日にお伺いします。うちを出る時にお電話します」

「それでは、お待ちしております」


電話を切って、そういわれったって納得出来ないよね。ボクがウソをいっているとは思えないから内心そうかと思いながら、でもやはり納得出来ないだろうなとひとりでRさんの気持ちを考えていました。


土曜日の午後早くRさんがやって来ました。早速見ましょうということになり、Rさん、私、メカのTさんの三人でクルマを日の光りの下に持ってきました。メカのTさんが問題の箇所を現車で示しながら順番に説明していきました。

Tさん
「ここの熔接のあとのラインご覧なれますか?」
Rさん
「わかります」
Tさん
「こちら側と前側明らかに違うのわかりますか?」
Rさん
「わかります」
Tさん
「カーペットを取りますので、そちら側からトランクルームの方をご覧いただけますか?」
Rさん
「やっぱり光が洩れている」

しばらくの沈黙が続きました。

Rさん
「Sさんこれって、やっぱり『2個一』じゃない」

「まあ、残念ですけどそうともいえると思います」
Tさん
「仮に『そっくり違うもので交換』でも、もう少しきちんとした仕事だったらいいと思うのですけど、この状態ではどうかと思います」
「それから、シャシーNoのプレートを見てください。この数字どう思います?」
Rさん
「・・・・・何か変ですね」

「このような間隔、字体のはメーカーで打って来たのとは違います」
Tさん
「こっちのと見比べてください(他の73のクルマを示して)」
Rさん
「わかりました」
「これどうしたらいいと思いますか?」

「このクルマ、何処で買ったんでしたっけ?」
Rさん
「○○国のクルマ屋で買ったんですよ、信用できるところなんですが、これが初めてではないので」

「正直、これをRさんが満足するレベルまでやり直すと大変な金額がかかると思います」
Rさん
「仮にこれが、いやこれが『2個一』でもそんな話しは一言もなかったんですよね」

「たぶん、事故の修理だったのか錆びていたからなのか、いまはわかりませんが修理にあたって別のフロントセクションでそっくり交換してしまう方が、かの国ではいいというか普通なんじゃないでしょうか?」
Tさん
「さっきも言いましたけど、仮に『そっくり違うもので交換』でも、もう少しきちんとした仕事だったらいいと思うのですけど、この状態ではどうかと思います」
Rさん
「弱ったなあ、電話でいわれた時は何かカーッとして、頭の中が白くなってムカッとして何いってんだよと思ったんですが、こうして目の当たりにしてみると良くわかりました」

「うちはRさんのご指示に従いますので、ご連絡ください」
Rさん
「どうするか、いろいろとこれから考えてみます」

結局この日はこれでお帰りになりました。

一週間ほどしてRさんから電話があり結局このクルマは、最終的にかの国に送り返すことになりうちで港までローダ−で届けました。そして、73RS高騰の追い風を受けて、かの国ではすぐに買い手がつき、Rさんは買った時より高く売れたとその後連絡がありました。

今回のことを振り返って、かなりの目利きのRさんでもそこまでは見抜けませんでした。私から申し上げられることがあるとしたら、はじめにこのクルマを見た時に、左右でAピラーのチリ、隙間が違っていたはずです。そのことにもっと注意を払うべきであったと。ただ、そのことから『そっくり違うもので交換』に気が付くのはかなり難しいことといえます。

高く売れたと連絡があったあとさらに少したって、その売却代金にお金に足して別のRSを買ったのでよろしくとRさんからメールがきました。

このESSAYをお読みの皆さんはわかって良かったとお思いですか。だとしたら、このクルマを次に買う人がいるってことですよね。それが皆さんでないこと祈っています。