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第221話 RSのひとりごとー6
流浪
現オーナーは、現状で整合性の取れているものを、オリジナルに回復するという新たな軸で整合性を取ることが実に困難で、結局全面的にやり直すことになることを思い知らされました。
私も、ワクワクした気持ちが急にしぼみました。本当のところ、予想されたことだったともいえましたが、心の奥では期待もしていました。
現オーナーの選択は、やはりというか私の売却でした。いろいろなところに声をかけて見ると、RS人気のなかたくさんの購入希望が寄せられました。現オーナーは私を見に来た人に、クーラー取り外しのことは話しても、サンルーフのことは一切話しませんでした。多くの人は、クーラーの穴が開いていることは気にしましたが、サンルーフには全然気がつきませんでした。むしろ、現状で整合性が取れていることに満足しているように見えました。
私は、知らないことは幸せなのかと一瞬思いましたが、いやそうじゃないと思い直しました。現オーナーが、座席の上に置き忘れた開いたままのカーマガジンの386号を見て、心の底からあのRSのようになりたい、戻りたいと思ったからです。
私は、程なくして新たなオーナーが決まりました。私は、またあの言葉を聞きました。新オーナーは、念願のRSが手に入りました。絶対売りません、多分死ぬまで持っていると思います。といいました。私は、この言葉がこの瞬間といっては言いすぎなら、でも有効期限はいくらも無いことを知っていました。またも流浪の旅が始まりました。新オーナーの所に向う途中、ワンオーナーカーって何台に一台くらいあるのだろう、それにしても十一人目か、・・・と思いました。私が、どうだったら手放されないクルマになれるのか、オーナーに誰にも売らないと心の底から思ってもらえるのか、ずっとずっと考えていました。
・・・・・来週に続く。
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