ESSAY TOP  

ナローポルシェや、M-HOUSEをとりまく色々な事柄を綴った不定期更新のエッセイです
第24話 ポルシェな人々 その16
ポルシェにまつわる様々な人々の、本人にとっては誠に真剣な、はたから見ていると実に楽しい愉快な生態をシリーズでお話ししましょう。

ポルシェのために免許をとった男-その2

さてFさんにやっとクルマをお渡しできる日が来ました。うちも修理が大変だったことなど忘れてしまって、きれいに仕上がったナローを見てよかったよかったと話し合っていました。Fさんに簡単な取扱いの説明をして、もっともそれ以前にうちの他のクルマに乗っていただいて体験学習していただいていたので、それとの違いを簡単に説明したのち乗り出していただくことにしました。上気した感じのFさんはうれしそうに、そして少しぎこちなかったですがうちのガレージを後にしました。

事件はその晩、といいますか翌日の未明に起きてしまいました。ナローの運転にも少し慣れ、スタンドで一息入れると共に空っぽに近かった燃料タンクにガソリンを入れたのは午前3時頃だったといいます。

自らも一息つき、クルマもお腹一杯になってさあ行くぞと走り出しました。前方の歩行者用信号が点滅をはじめました。そこまで少し距離もあったのでアクセルに力を込めました。信号は無事通過しました。しかしその直後、目の前でストロボのような閃光に襲われました。とっさにオービスだと思った時はもう通り過ぎていました。翌日明るくなってから、Fさんは現場を通ってみました。やはりそこにはオービスがありました。
いろいろと考えてみました、いつもなら必ず気が付くのにどうして、いつものつもり?、バイクはフロントにナンバーが無いのでオービスに警戒が薄いのがここで出てしまったのかなどなど。でも本当のところは、ガソリンを満タンにしてここから心おきなく走れる、さああのナローの加速を堪能しようと思って何も考えていなかったというのが真実だったのではないかと結論に達しました。Fさんには微細な違反(黄色線超えなど)の前歴がありました。この12点でちょうど15点でした。ここから、いろいろな人に聞き、ネットで調べ、できる限りの情報を収集しました。曰く、三ヶ月を過ぎても通知が来なければ大丈夫だよ、15点ちょうどの人はまず取り消しにならないよ等々免許の取り消しに関する希望的な話、悲観的な話を聞きました。
違反の日から毎日、帰宅の時に郵便受けをあける時の緊張は当事者で無ければ絶対わからないものがありました。一日一日と日が過ぎていき、三ヶ月が過ぎました。これはひょっとしてセーフだったのかな、と思いはじめたのはそれからもう半月が過ぎたころでした。心も大分余裕を取り戻しはじめたまさにそんな時、通知は来ました。
それから署轄の警察に何度か出頭して話しを聞かれ、担当の警察官から希望的な話しや同情的な話しを聞きました。しかし、担当の警察官が話していた希望的な話は実現せず、聴問の日が来ました。言いたいことはいっぱい考えていました、ただ、その何分の一も話せず、どうしても言っておかなければならなかった「心から反省しています」の一言も言えずじまいでした。結果は残念ながら、取り消しでした。周りからは稀だといわれました。
弁護士さんに頼んで「異義の申し立て」もしました。何ヶ月たっても音沙汰が無いので問い合わせてみると、結果が出るまで八ヶ月から一年くらいかかるといわれ、それでは、取り消し期間が終わってしまう「異義の申し立て」とは名ばかりで意味がないことを思い知らされました。

現在Fさんは、一年の喪があけ自動二輪と普通の両方の免許を回復しました。昨日電話があり、ナローを動くようにして欲しい、バッテリーが上がっているのでお願いしますとのことでした。

私はFさんとの一年を振り返って、Fさんは本当に取り消しにならなければならなかったのか、考えています。
ミニバイクでひったくりをくり返す未成年の暴走族、酒を飲んで運転しているタクシー、明らかな過積載常習のダンプカー、幹線道路の一車線を塞ぐ違法駐車、右左折の多い交差点内の違法駐車どれも悪質です。そして、仮に検挙されてもいっぺんに12点は失いません、酔っぱらいタクシーを除いて。

ナローに乗ったその晩に免許をなくしたFさんはポルシェのために免許をとった男でした。M-HOUSEはポルシェを愛する人をこれからもずっと応援します。

>>ポルシェのために免許をとった男-その1 に戻る