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ナローポルシェや、M-HOUSEをとりまく色々な事柄を綴った不定期更新のエッセイです
第299話 ポルシェレストアのキモ-9
色塗装のオリジナル再現 

 色塗装に関する次のようなメールをいただきました。ご本人のご了解をいただきましたので全文を掲出させていただきます。そうしないと質問のご趣旨がよく理解できないと思われたからです。まずはお読みください。

M−HOUSEさま

はじめまして、こんにちは
いつもエッセイ楽しく拝読させていただいております。
○○○に住む○○と申します。

今回は、エッセイでは、「M-HOUSEは、ポルシェのカタログカラーはすべてOKです。」 とありましたので、ここで私の今年始めに修復できあがった356○の塗装を通じて、いろいろ、ポルシェの色の塗装について疑問等湧きあがっておりましたものですから、メールさせていただきました。

私は、絶対に色には妥協できない性質なものですからよくある、赤、白、黒、銀は絶対に避ける、当時のカタログやNETで見られるカラーチャートにあるような、微妙なヴィンテージな色にしようと決意してとりかかりました。
いざ色を決める段になって、素人の私が始めてわかったことは、色の調合リストは入手できても、それは、その指定塗料メーカーの調合データであって、他のメーカーのものは、正確には役にたたないということでした。

NETにある有名なものは、グラスリットのもので、グラスリットの塗料を使うことが前提となっており、そのデータはあるようでした。
それでは、グラスリットを使ってくださいとお願いしましたら、現在グラスリットは、日本から撤退しているとのこと。
その工場は、基本は、デュポンでしたので、日本支社を通じて、56〜60年の356の色のデータを世界に探してもらいました。
とすると、大本命のストーングレイのデータがカナダから見つかったということで、最終的にそれに決め、結果としては 大満足してはおります。

それはそれでよかったのですが、その上で生じた私の疑問は、
・世界的にも、ポルシェの一切の追加塗装ないし塗り替えは、本当に、本来のデータでその指定塗料で塗られているのだろうか。結局、多くは写真を見て、職人技で近い色を出してしるにすぎないのではないか。
・それもむずかしいから、結局、赤、白、黒、銀が多いのではないか。

結局、これだけ今レストアだヴィンテージだパーツだの確保の情報が、NETも通じて世界から入手できる状況に現在あるにもかかわらず、塗装の知識ないしデータはほとんどこれまでなかったということではないかと思わざるをえないのです。

翻って、私の今回のデュポンのストーングレーの調合も、この50年の間のいつかの時点で、実は誰かが基の色(これもなんなんのか)を見て職人技で調合したのではないか。
しかもオリジナルと同じ塗料メーカーでも、時代の移りで原料も違い、調合しても同じ色にならないであろうし。
とすると、色に関しては、もはやオリジナルの色に合わせることは不可能なことではないかない。
と思わざるをえないのです。私の場合も、結局は自己満足にすぎず、全てはそういうことなのか、と悟りの境地に行くしかないのかと・・・・
ポルシェに限っても、これは356だけの話し、私だけの奇遇な話しなのでしょうか。

そこで、M−HOUSEさんにお伺いしたいのですが、「ポルシェのカタログカラーはすべてOK」という意味は、本来の当時デリバリーした現物の色と全く同じに塗れますよ、ということなのでしょうか。
M−HOUSEさんのポリシー、限りなくオリジナルを確保するということからして、どこまで保証されるシステムが、確保されておられるのでしょうか。
各塗料メーカー別に調合表が揃っているのでしょうか。それとちょっと違ってもこれ以上手を加えないとか。
塗料メーカーは同じでも違ってくる可能性のある中でどこまで追求できるものなのか、お話しできる範囲でエッセイに書いていただければ、多くのポルシェフリークに有益だと思うのです。

長くなりまして、申し訳ございません。
ついつい塗装色のことが、初めて書かれておりましたので、私の思いを書かせていただきました。

これからも御身御身体大切にされ、エッセイの方続けてください。
楽しみにしております。
失礼いたします。            ○○○○

以上のようなメールです。
さて、質問の箇所を一個一個抜き出してお答えすることで、M-HOUSEではどう考え、修理レストアを実施しているかをご理解いただこうと思っています。○○さんのご希望に添うお答えにはならないかもしれませんがご容赦ください。そのことにつきましても、最後まで読んで頂ければご理解いただけると思います。

1、『・世界的にも、ポルシェの一切の追加塗装ないし塗り替えは、本当に、本来のデータでその指定塗料で塗られているのだろうか。 』
 追加塗装と塗り替えではアプローチが異なります。フェンダーを擦った、ドアのエッジを傷つけた等は追加塗装です。この場合も新車から間がないのか、かなり時間が経過しているのかで異なります。新車時であればメーカー支給の塗料でも大丈夫かもしれませんが、使用過程で時間の経っているものはデータ通りでは色が合いません。色を作らなければダメです。
 全塗り替え(色の入っている部分はすべて塗るという意味です)は、データ通りでいいでしょう。ただ、現実には生産時の塗料メーカーのもの、もしくは指定メーカーの塗料が使われることは少ないと思われます。
2、『結局、多くは写真を見て、職人技で近い色を出してしるにすぎないのではないか。』
 このご質問の直接のお答えではありませんが、同じ調色の塗料を3人の職人さんが3台の同型のクルマに別々に塗って、最後に3台並べてみたら、3台は微妙に異なります。同じ色にはなりません。人のくせ、技量が必ず現れます。それぐらい微妙なものです。さらに、メーカーなら可能かということですが、それもダメだと思います。強いていえば、当時のメーカー(今となってはあり得ませんが)の塗装ラインのみが当時の色、肌、厚み、質感を再現できるだけです。つまり現在のポルシェでさえ当時の塗装は再現できないということです。
 あと、写真で色を判断する職人さんはいないと思います。写真からではデータの収集も何の判断もできないからです。
3、『・それもむずかしいから、結局、赤、白、黒、銀が多いのではないか。』
 これは再現云々とは全く関係ないです。
4、『「ポルシェのカタログカラーはすべてOK」という意味は、本来の当時デリバリーした現物の色と全く同じに塗れますよ、ということなのでしょうか。 』
 これは最後にします。
5、『M−HOUSEさんのポリシー、限りなくオリジナルを確保するということからして、どこまで保証されるシステムが確保されておられるのでしょうか。 』
 M-HOUSEとして、こうすればオリジナルが再現できるという手順方法は、多くの試行錯誤を経ておりますが確立しています。何台もやってきた中で実証されています。ただこの方法をシステムとお聞きになられた方が、ご自分の行かれている板金塗装屋さんに行って話をしても、できないというよりも、もう来ないでくれ帰ってくれと言われるかもしれません。それぐらい細かく、一般的には言わないこと、塗装のセオリーに反すること、などなどのオンパレードだからです。M-HOUSEもはじめのうちは大げんかでした。
 もし、オリジナルが再現出来ますよと確信を持って言う塗装屋さんをご存知の方は是非ご紹介ください。リアルによろしくお願いします。
6、『各塗料メーカー別に調合表が揃っているのでしょうか。それとちょっと違ってもこれ以上手を加えないとか。』
 M-HOUSEでお願いしている板金塗装屋さんが使用している塗料メーカーのデータは当然確保されています。他にはお願いしないのでそのメーカー以外必要はないと現時点では思っています。配合表に手を加えるかとのことですが、例えば全塗装で、ドアの内側、フロントフードの裏側、トランクルームはすごくいい状態を保っているので残したいとします。オリジナルをできる限り尊重する立場からは当然です。こういった場合は、データ調色では色は合いません。そのクルマの現状と同じ色にするしかありません。つまりそのクルマの現状(いい状態でオリジナルが残っているところ)に合わせるわけです。外側はオリジナル調色、内側はオリジナルそのもの、しかしドアを開けたら色が違うというわけにはいきません。
7、『塗料メーカーは同じでも違ってくる可能性のある中でどこまで追求できるものなのか、』
 オリジナル再現の要素は色だけではないのです。調色が出来る技術があるとして、つまり色の配合調色はその一部に過ぎないのです。先ほども申し上げましたが、色、肌、厚み、質感、板金の具合(一例にすぎませんが、ナローでも69年と73年とでは明らかにボディーフェンダーの作り方、形状が異なります。これを見ただけで年式もわかりますし、オリジナルなのか、加修をしているかいないのさえもわかります)、バンパーや外装部品の装着具合などなど、すべてが新車時のように再現されてオリジナルに近づくのです。
さて最後になりましたが、

『「ポルシェのカタログカラーはすべてOK」という意味は、本来の当時デリバリーした現物の色と全く同じに塗れますよ、ということなのでしょうか。 』
にお答えします。
 まず、M-HOUSEでは色替えを基本的にはしません。オリジナルを尊重するというのであれば、好みの色のクルマを買うべきです。それを元色で塗り直すのがオリジナルを保つ、再現することになるつながる第一歩です。購入が難しいから色替えするのですとおっしゃりたい方も多いと思いますが、申し訳ありませんがその時点で同じゴールタイム、スコアを出すにはハードルが高くなるとお考えください。特に1970年式以降は。
 今回塗料のメーカー、配合調色が取り上げられていますが、もっと申し上げると、同じメーカーでも当時と同じものは絶対にできません。今回の356でいえば、当時はラッカーだったはずで、塗装屋さん段階でも、現在油性ウレタンのものから水性塗料に移行している最中ですから、そういった材料しか手に入らない中でどうすればいいかという視点が重要です。ラッカーで塗ったように見えるようにするにはどうするかという視点が、はじめからないといけないということです。これの実現はかなり難しいですし、中堅以下の職人さんはラッカーの仕上がり状態を理解していない方も多いと思われます。
 最近見かけるレストアが終了しましたという車は総じて綺麗過ぎます。当時の生産車が全てにわたってあんなに綺麗ではないのです。ナローでもそうですから、356はもっと仕上げるときに、当時の質感の再現により注意を払う必要があります。そして逆に、ラッカーの肌をきっちり再現できたものを見たら、これ変です、こんなツルツルで艶のないのは見たことないおかしいですと言われてしまうかもしれません。
 カンで作った近似値の色をオリジナルだと言い張るのは言語道断ですが、オリジナルの色をどこか少しでも残しての全塗装であれば、メーカー配合通りの調色はありえません。
 ここまでお読みいただければ、生産時の再現は本当はできないと気づかれるはずです。M-HOUSEがやっても、もちろん現在のポルシェがやってもです。ただ、限りなく近づく、近づけることは可能です。昔新車で買った方が、昔のアルバムを出してきて、出来上がった現車を前に、記憶も交えて見比べてもわからないくらいは可能だと思います。ただ、6、70年代のツッフェンハウゼンの工場を出てきた時そののままというのは誰れにも不可能だと思います。
 もう一点、net情報は大変便利ですが、それですべてこと足りることはありません。塗装のように質感、雰囲気などの状態そのものが重要な事柄にはnet情報は無力です。netで得られないものは自分から取りに行くしかありません。良く知っている人、達人名人、過去を実際に見た人、沢山の数を手がけている人、などなど相手先はさまざまですが、直接接触して納得いくまで何度も何度も話を聞き、見せてもらい、触らせてもらい、体験させてもらうことによってしか手に入れられません。塗装の肌、厚み、質感それらすべがリアルでしか実感できないのです。オリジナル再現にはこれは絶対に欠かせません。それを知らないと出来上がったものの良しあしが判断できないのですから。netのおかげで知らないことに簡単に到達できるようになりましたが、オリジナル再現に限らず、本当の本物、核心に到達するにはnetだけでは完結できないことをもう一度確認しておかなくてはなりません。
 ○○さんには大分辛口になってしまいましたが、もっとトータルに全体を見て頂けたらと思います。どんなに素晴らしい色であっても、板金やチリなどの整合性、下地、塗装の肌厚みなどで全然違った印象になってしまうものです。塗料のメーカーや色の配合調色はオリジナル塗装の再現の一部にしか過ぎないのです。
 そしてここが一般の方には一番難しいところではありますが、修理レストアをスタートする前に全体を完全に読み切り、途中で当初方針とズレていないか何度も何度も確認して確認して、少しでも変だと思ったら徹底的に説明してやり直してもらい、塗装の入庫から出庫まで最低でも週一回は現車確認をして、塗装屋さんからこいつおかしいんじゃないかと思われるくらい通いつめて、何とか100%に近づくというのが私の今までの感覚です。ここまでしても100%はないと思います。もちろん信頼している塗装屋さんにおいてでの話です。
 つまり技術のある塗装屋さんにお任せするのではなく、どういうものをどういう風に塗ってもらうか、現出させてもらうか、相手に理解してもらえるように説明できなければ、結局は職人さん任せのものにしか仕上がってこないのです。年式別の雰囲気の違いなど職人さんは知らないのですから。
 「ポルシェのカタログカラーはすべてOK」とは、本来の当時デリバリーした現物の色と全く同じに塗れますよということでもありますが、どんな色でも許容できるということでもあります。一般的に日本人の嫌いな色、紫(ナローではアーバジーン)や草色(ブッシュグリーン)、SWBの赤や黒も、みな素敵な色です。人で言えばそれは肌の色と同じで生まれつきのことですから、ポルシェのカタログカラーはすべてOKです。



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