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第31話 ポルシェな人々 その21
ポルシェにまつわる様々な人々の、本人にとっては誠に真剣な、はたから見ていると実に楽しい愉快な生態をシリーズでお話ししましょう。
あなたならどうします? 「自信を持って聞いた自分のクルマのオリジナル度」のあと
だいぶ以前の話になりますが、ナローポルシェが何台か集まって話をしたことがありました。その中に、アメリカで 徹底的にレストアをしましたというクルマがありました。それは大変きれいで新品のようでした。
お茶を飲んでから、皆で表に出て各自のクルマを見ながらまた盛り上がっていました。
そのレストア車のオーナーが近づいてきて、
「このクルマのオリジナルでないところをいってもらえますか?結構あると思いますが」
と話しかけてきました。
「いやー良くできてますよこのクルマ」
と私がいいました。すると、
「できたらSさんから見て、おかしなところがあったらいってもらえますか」
と再度質問されました。私は、
「良くできていますよこのクルマ」
と再度同じ答えをしました。するとその方はさらに続けて、
「 ショックは受けませんから是非お伺いしたいのです」
といわれました。私にはこう感じられました。かなり自信を持っておられるな、これは本当のことはいえないなと。そして黙っていると、
「是非オリジナルでないところをお聞きしたいのです」
と重ねて尋ねてきました。私は、そこまでいわれたら仕方がないのかなと思って、
「どうしてもといわれるのでしたら、申し上げますが、よろしいのでしょうか?」
といいました。その方は、
「是非お願いします」
ときっぱりといわれました。私は話した後にあるであろうリアクションに思いを馳せつつ覚悟を決めて話しはじめました。
「外からいいますと、まずフードクレストがレプリカです。それからヘッドライトがこの年式はH4ではありません」とまずいいますと、オーナーの方がそれは判っていますといわれました。私は続けて、
「フロントガラスが純正品ですがSCのころのものです」と申し上げると、
「そうですか、でもそれは仕方がないです、室内はどうですか」といわれました。
続けて私が、
「そのために、ルームミラーも必然的にSC以降のものになっています」
「ダッシュボードがこの年式とは違います、ダッシュボード下(ラジオなどのあるところ)に張ってあるバスケットウエーブとイスに使ってあるバスケットウエーブの生地がレプリカです」というとそうですかと少し不満そうでした。さらに続けて
「ヘッドライナーが汎用品です、純正のものではありません。サイドシルのアルミのプレートを止めているリベットも汎用品です。本来は透明のプラスチックです。ドアのストライカーがナローの頃のものではありません。3.2カレラの頃のものです。メーターがいろいろな年式のものが混じっています。この新しい灰皿は、正確にいうと、パッドの部分はうんと後期のもで、ナローのアンダーダッシュ(ニーパッド)のRと合いません。カーペットは純正ではなくて社外です。ラジオの年式が合いません。などなど」さらに部品ではなくて、配線等のことに移りました。
「バッテリーまわりの配線が正しくありません。この配線はここを通りません。トランクカーペットの当て板がありません。バッテリーのターミナルカバーがありません。車載のジャッキが年式と違います。工具も全数ありません」等々申し上げると、オーナーからはことばはありませんでした。あっけに取られているような、そんなこと考えもしなかったというか、なにしろどういうことなのか整理が出来ない様子でした。
しばらくの間があって、オーナーがエンジンルームはどうですかと聞いてきました。後ろに廻って、
「コーションプレートが年式、グレード、位置があっていません。エンジンマウントの取付方法が逆です。」と申し上げたら急にムッとしたようになり、
「以前乗っていたカレラと同じですよ。これで何か問題があるんですか?」といわれました。確かに同じ部品なのですが、取付方法がSCになったあたりを境にナローと逆になったのです。そこで私は、
「ミツワのメカニックでも、ナローも元々今ついているようになっていると思っているメカの方もおられるので仕方ないですね」とフォローともつかないことをいいました。ただ、逆についているのは正規の取り付け方ではありません。
さらに純正部品でなくて社外品がついているところ、ドアミラーやメッキのホーングリルなどざっと目についたところをお話ししました。
一通り話終えてオーナーの方が、レストアものですから仕方がないですね、きたないままよりずっといいですからといわれました。当初の意気込みからするとだいぶトーンダウンしていましたが、こういった場合のオーナーの予想される反応のひとつでしたのでそれはそれで理解はできました。多くの方が、きちんとしたところ(ポルシェAGも含めて)でレストアするときちんとした純正部品、そして製造廃止部品は当時物の新品部品かそれを新たに作成して組み付けられてくると考えておられるようです。しかし残念ながら、無いものは無いのでそうはいかないのが現実なのです。
このあとオーナーの方が、「いまご指摘頂いた社外や年式違いのパーツですがM-HOUSEさんにはあるのでしょうか」といわれました。私は、
「あります、どうしてもご希望ならほとんど新品でご用意も出来ますが」
申し上げると、
「どうしてお持ちなのですか」
と聞いてこられました。どうお答えしようかしばし考えましたが、正直に、
「オリジナルに何がついているのか、どうなっているにかを知ってしまってからレプリカや社外品、純正品でも後のものではオリジナルの雰囲気が出ないことがわかったからなんです。機会があるごとにパーツは買うことにしているのです。そんなことをくり返しているうちにほとんどのパーツが揃ってしまったのです。」
オーナーの方が、
「そうですか、オリジナルを知らないとダメですね」といわれました。
私は、
「ここから先どうされるかはオーナーのお考え次第です。このまま持たれるか、売ってしまわれるか、徹底的
にオリジナル、生産時の状態を追求されるか。」と今までの経験から三つのタイプの話しをしました。
オーナーの方は、
「しばらく良く考えてみます。」
とそれはごく一般的な答えでした。
知らないでいればどうということは無いのですが、ひとは一度事実を知ってしまうとそのことが気になって仕方がないものです。さてあなたはどうされますか?。
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