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第34話 ポルシェな人々 その23
ポルシェにまつわる様々な人々の、本人にとっては誠に真剣な、はたから見ていると実に楽しい愉快な生態をシリーズでお話ししましょう。
やっぱり難しいですかね?というよりやっぱり無理ですね、○○年式Sを買った方へ
先日クルマを運転中に電話がありました。危ないのでクルマを端に止めてお話を聞きました。
「ポルシェ全図鑑」を見てお尋ねなのですがで始まりました。
この方は東京近郊にお住いの××さんという方で、前にM-HOUSEにいらしたことのある方でした。
××さんはこんなことを言われました。
「以前お伺いして73のTを見せていただいた者です。あれはいいおクルマですね。私も最近いいナローに巡り合えて○○年式Sのナローを買いました。」
「それは良かったですね。それでどんなことでしょうか、お聞きになりたいことは?」
と私が言うと、
「エンジンについてなのですが、エンジン型式の刻印とエンジンの製造番号が一致しないのです」
「もう少し詳しくご説明していただけますか?」
「はい、ポルシェ全図鑑を見ながら確認したのですが、エンジン型式の刻印のグレードとエンジンの製造番号のグレードが一致しないのです」
私はどう合わないのですかと尋ねると、
「エンジンの製造番号はSなんですが、エンジン型式の刻印のグレードはTなんです。まずそんなことがあるかということと、どうしてなのかをお聞きしたいのですが」と言われました。
どうお答えするのがいいのか、ちょっと迷いましたが、
「エンジン型式の刻印のグレードがTでエンジンの製造番号がSということはありません。考えられることはどちらかが打ち直されているということですが、お電話ではそれ以上何とも申し上げられません。気になるようでしたらお一度クルマに乗ってお越し下さい」と申し上げると、
「それでは近いうちに、お電話をしてお伺いします」と言われて電話は終わりました。
それから何週間かして、××さんがナローに乗ってやってきました。
私はそれを遠くからちらっと見て、あーあ、やっぱり、どうしようか、なんて言おうかの気持ち全部がごっちゃになったなんとも言えない困った感じに襲われました。
××さんがお店に入ってこられたので、二人で裏のクルマを止めてあるところに向かいました。まず××さんが、
「どんな感じでしょう」と漠然と総評のようなものを求められました。
私は、
「全塗装を最近されたのでしょうか。きれいですが、元色かも知れませんが、このお色は純正色にはない色ですね」と一番当たり障りの事実を申し上げました。
××さんは、
「それ以外に何かあるでしょうか?何でもいいですから」ともう少しお聞きになりたい様子でした。
私は、
「うーん」と言いながらクルマを見ていました。
すると××さんはご自分から、
「このクルマ、エンジンをO/Hする時にエンジンケースがダメでTのものを使ったとこの間聞いたんです、だからこの間のことは解決したんですが、このエンジン製造番号ってほんとに打ち換えられるのですか?」と
指を差しながら聞きました。私は、
「できると思いますよ」と申し上げました。
××さんは、
「これは間隔も揃っているし、おかしく見えないので何か納得出来ないんですよ」と言われました。
私は、
「字体が違います、今ガレージに入っているクルマと比べてみましょう」と一旦ガレージに戻りました。ガレージにあるクルマのエンジン製造番号を見ながら、
「この数字が違うでしょう」と指摘しました。そしてついでに決定的な違いを申し上げて、裏の○○年式Sのところに戻りました。すると××さんは、
「ほんとだ、オリジナルとは違う、わかりました」とこのことは納得されました。
そして次に××さんは、
「このクルマ錆は無いでしょ、それは自信あるんです。買う時に徹底的に見ましたから」と言われました。
仕方がないので私はさっきから目についていたところ何ケ所かを、
「これは錆びているところ、もしくは錆びていたところを補修しているところではないですか」と指摘しました。それらは、再塗装をされているので一見錆びているとは見えないのですが、良く見れば錆びていた、もしくは今も錆びている状態であることは明白でした。
××さんは、
「そうですか?」と納得出来ない様子でした。仕方がないので再度ガレージに戻って同じ箇所見てもらい錆びていない状態を確認してもらいました。
××さんは、
「言われてみれば確かにそうですね、わかりました」と言った後、
「以前73のTを見せていただいて、それと同じ程度だと思ったし、いろいろなところを『ポルシェ全図鑑』で確認したので間違いないと思ったのですが、・・・・・・」と言われました。
そのあといろいろなお話をして、帰りがけに
「問題点はわかりました。これから少しづつ直していきますので、またよろしくお願いいたします」と言って帰って行かれました。
しばらくして、yahooオークションに東京より西のクルマ屋さんから、同じ色の○○年式Sが出品されているのを見つけました。そこには○○年式S、[フルオリジナル錆無極上]とありました。良く見るとそれは××さんが、「問題点はわかりました。これから少しづつ直していきますので、またよろしくお願いいたします」と言って帰ったクルマそのものでした。
誰でもいいクルマがほしいと思います。そんないいクルマを手に入れるために、経験を積み、知識を貯え、日々努力をされていると思います。××さんも、M-HOUSEのいいクルマを自分の目で確かめ、本や雑誌で確認しながらこれだと思って、あの○○年式Sの購入を決断したのだと思います。しかし、結果は先程申し上げた通りです。やっぱり普通の人には無理なのだなと思った出来事でした。
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