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ナローポルシェや、M-HOUSEをとりまく色々な事柄を綴った不定期更新のエッセイです
第347話 ボーダーライン-2
NHKのドラマ、ボーダーラインを見ました?

 消防車が到着して、ホースなどの準備に2、3分かかって消火が始まりました。この時、隣家は完全に炎に包まれ、全焼は免れない状況でした。その時、お住まいになられていた老夫婦は逃げられたのかと思いました。ただ、そのようには感じられませんでした。
 消防士の一斉の放水が、一階の火元をめがけて始まりました。その威力はさすがというか、火の勢いが一気に衰えたようでした。あのホースと水圧なくして消火にはならないと実感しました。ただ、二階に燃え広がった炎は私の家の二階の壁と軒天に襲いかかり、一階の火は駐車中の車に燃え移っていました。消防士はまず、可燃物があるからか室内まで燃え広がった車の火を消そうと、大きなバールのようなもので前後のガラスを割る作業をしました。その後車に一斉に放水して、車の火もほぼ消し止められました。その頃も、我が家は二階からの炎に焼かれていました。ちょうどその時娘のところに出かけていた奥さんからの携帯電話がありました。後で聞きましたが、私はうちが燃える燃えると言っていたようでした。その着信は、後で携帯を見たら午前2時ちょうどでした。
 私は、うちが燃えているからうちの火を消してくれと大声で叫び続けていました。しかし、我が家は外から炎が見えないせいか、誰ひとりとして取り合ってくれませんでした。でも、火が襲ってきた側ではない軒天換気口から断続的に黒い煙がモクモクと出てきているのを見て、確実に天井裏が終えていると思いました。その時です、カメラとバインダーを持った女性消防士が近づいてきました。彼女は、119番をされた方ですね、その時の状況を聞かせてくださいと言いました。私はそれどころではないわけで、この人にも、うちが燃えている、すぐ消してくれと言いました。すると彼女は、私は記録する係で消火するものはご覧の通りやっているのでと言いました。私は後にしてくれと言いました。彼女は、それでもいまお聞きしなくてはならないのです、と言いました。私は余りの無神経さに思わず大声で怒鳴りました。話は後でちゃんとするから、まずうちの火を消してくれと。
 そんなやり取りをしているうちに、一人の消防士が我が家に入っていきました。私も心配でついて入りました。続けて2、3人の消防士がきました。シートとたぶんバールを持って来いというようなことを言っているようでした。いよいよバールで我の家の天井を壊すところになって危ないから外に出てくれと言われました。今頃うちの中も水浸しになっているのだろうなと思っていたら、我が家の二階のガラス窓が消防によって割られ、そこから隣家の二階に目がけて放水が始まりました。その結果隣家の火もかなり消えたようになり、しかしまたしばらくすると壁の間から炎が盛り返してくるという状況が何度も繰り返されて、鎮火に向かっていくようでした。
 また、記録係の女性消防士がやってきました。まだ後でもいいと思いましたが、119番の時の状況を話しました。その時わかったことは、私が最初でただひとりの119番通報者であったことです。あの時、誰かがもう119番したなと勝手に思わないで、ダブってもいいから119番しようと思ったのは間違っていなかったと、もししていなければ消防車の到着はもっと後になっていたと、良かったと思うと同時にぞっとしました。
 鎮火したということになったのは、朝方4時を過ぎていたと思います。その時、現場指揮官がこんなことを言いました。今日は(ほかの出場も無く)、たくさん(各消防署から)来てくれたので、帰らないでほしい。全部から報告を聞きますからと。その時私はなぜだと思いました。たくさん来ていたのなら、どうして我が家の方に延焼防止をしなかったのか、なぜ早く我が家の火を消してくれなかったのかと。その時感じたのは、所詮この人たちにとって他人事でしかないのだ。消防も役所なのだと。
 そしてこの時もう一つ感じたのは、人命が一番であること、もちろんそれはまったくその通りだと私も思います。しかしその反対側に、人命が救えさえしたら家は燃えてもやむを得ないという考え方が根底あるように思えたことです。でも、消防しか火災に対処できないのだとしてたら、それが事実なのだから、あの日のように人数に余裕があったのなら、我が家は燃えなくてよかったのではないかということです。我が家が隣家と同じように全焼して、また隣りに類焼したら、下手をするといわゆる大火災に発展して、人命の危機はより拡大してもっと多くの犠牲者が出たのではないかということです。
                    続く




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