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第35話 ポルシェな人々 その24
ポルシェにまつわる様々な人々の、本人にとっては誠に真剣な、はたから見ていると実に楽しい愉快な生態をシリーズでお話ししましょう。
Xさんの悲しい思い出・・・「家一軒の価格とナローポルシェの金額は同じ」
大学生の頃に親にナロー(勿論新車)を買ってもらえたら、超幸せだと思いますか。今日はそんな人のお話しです。
仮にXさんとしておきましょう。Xさんは16歳になった頃親御さんとある約束をしました。それは、所謂○○が出来たら何かを買ってあげるといったもので、良く小学生が今度の通信簿が良かったら夏休みにディズニーランドへ連れていってねというのと基本的には同じものです。ただ、話しの経緯は小学生より少し難しかったようですが・・・。その約束とは免許を取ったらポルシェを買って貰うというものでした。そして実行されるのが1973年、昭和48年でした。
Xさん談
この昭和48年は大変暑い年でした。私はこの年、夏休みを利用して普通免許を取りました。確か9月のはじめに交付だったと記憶しています。私の家ではその前年の昭和47年に環境の良いところに住みましょうということになり世田谷に土地を買いました。それはM-HOUSEさんがあるところよりももっと都心寄りのところで30数坪と小振りでしたが家族3人が住う手ごろな大きさの家を建てるにはピッタリの広さでした。この土地が640万円でした。そのとき見た建て売り住宅で、今M-HOUSEさんのある辺りで30坪ちょうど位の広さの土地に20数坪の家が建っている新築物件で650万円というのがあったのを鮮明に記憶しています。それは、73年式のポルシェ911Sと同じ値段だったからです。
今でもポルシェは高価なクルマですが、ナローの頃は家一軒と同じだったのです。今の貨幣価値でいったら4、5千万円になると思います。以前聞いた話で、ナローに昔から乗っておられる方が、911を買わなければ家がもう一軒買えたんだけどなあ、そのあと買い代えなければゴルフの会員権があとふたつはあるはずなんだけどなあといっている、というのを聞いたことがありました。4、5千万円といったら現在のクルマでいうと、ベントレーとかメルセデスベンツのマイバッハやちょっと高くなりますがカレラGT(5800万円)に相当する金額です。
そしてこの約束を実行をするように話した時の親のことばを今でも覚えています。
「640万円といえば家が一軒買える金額だよ、それでもお前が欲しいというなら買ってあげるけどどうする?」
それは夏休みも終盤、8月も終りの暑い日のことでした。このときそれでも、ズバリ欲しいといって買ってもらっていたら、私の人生は今とは違ったものになっていたことだけは間違いないといまでも思います。
現在Xさんはナローポルシェをはじめ何台ものクルマを所有されるクルマ好きです。
いま手元にカーグラフィックの73年9月号(73RSのインプレッションの号)があります。裏表紙にはミツワの広告が載っていますがそこには毎号ポルシェの価格が載っています。
●911S<5速>¥6,400,000
Xさんは常識的なすばらしい方だと日頃から思っていますが、この時も賢明な選択をされたんだなあと思います。よほどのどら息子でもなければ、親に家一軒買える金額をクルマに出させるのは出来ないでしょうし、免許取り立ての大学生が乗るにはポルシェ911Sは不釣り合いだと考えるでしょう。そのことをXさんに伝えると
「自分でもそう思ってきました。でも、つい買って貰っていたらと最近考えちゃうんですよね」
と仰っていました。その気持ちもわかるよな気もしますが、そんなご家庭であったことが私には羨ましく思えました。
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