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第37話 中古車に乗るっていうことと古いポルシェ、ナローに乗るっていうこととは全く違うのです
M-HOUSEは中古車は売っていません。いい加減なことをいうな、ナローは中古車だろうとお叱りを受けそうですが、M-HOUSEは古い年式のポルシェを売っているのです。どこが違うんだよとまたまたお叱りを受けそうですが、それが違うんです。
今、目の前に1967年2月号のCARグラフィックがあります。目につく記事はDavid Phipps氏による’67年Sのロードインプレッションとこの年の春から発売されるトヨタ2000GTの「トヨタ2000GTとその生いたち」、巻頭のベルトーネ近作集のなかのランボルギーニP400ミウラのプロトタイプとプロダクションの写真
今月入荷(最新日本到着輸入車)コーナーのアルファ・ロメオ ジュリアスプリントGTA(1600cc段付)と
’67S、広告からプリンススカイライン2000GT-Bのマイナーチェンジ(通称54B)、今はないアメリカ、リノのHarrah's Automobile Collectionの詳細な報告ー2などが載っています。正直この号はすごいと思いますが、それはさておいて、この中から’67年Sとトヨタ2000GTとプリンススカイライン2000GT-Bに注目してください。
トヨタ2000GTは言わずと知れた国産車であり、最高速度230Km/h、連続巡行速度205Km/hといわれた名車です。プリンススカイライン2000GT-Bは、1964年の第1回日本グランプリのために急きょ作られた国産初のウエバー装着の生産車にして、式場壮吉氏の904と生沢徹氏のスカイラインの伝説のレースの元になったクルマ、その後の桜井スカイライン伝説?、GTRのはじまりのクルマでありカタログ値180Km/hを誇っていました。
この3車’67S、トヨタ2000GTとプリンススカイライン2000GT-Bは当時の高性能車であり、奇しくも皆2000ccです。ここで想像してください、この3台の新車が38年後の2005年の今にあって普通に使ったらどんな感じかって。国産旧車の趣味の方や最近古い国産車に乗ったという方(ほとんどいないでしょうが)なら、今のクルマと基本的なところ、止るというブレーキ性能や見た目も実際もボディー剛性が全然違うことに気付かれると思います。正直その違いは、現在の交通状況では恐くて使い物にならないというレベルの差のはずです。
私は、若い頃にセリカ1600GT(通称だるまセリカ)に乗っていました。M-HOUSEをはじめる少し前、機会があって古い48年式(’73年)セリカ1600GTに乗せてもらいました。乗っていた当時はそんなこと何にも感じませんでしたが、その時感じたことは、何て古臭いんだろう、何でこんなにブレーキが効かないんだろう、何でブレーキのタッチがこんなに頼り無いんだろう、何でこんなにパワーが無いのか、あの2T-G(DOHC1600)ってこんなだったっけ?、ハンドルが重いな、どうしてこんなクルマまた買おうと思ったのだろう、と。クルマをお返しする時、とても現代では使い物にならないと思いました。この昭和48年式のセリカは当時トヨタの誇る最新鋭のクルマにして姉妹車カリーナと共にアメリカ市場をはじめ全世界に輸出されていました。
先日、うちの’67Sを栃木の倉庫まで自走して持っていきました(東京は置くところがM-HOUSEには無いのです、お客さまのクルマで車庫はいつもいっぱいなのです)。もちろんその速度を出した訳ではありませんが、このクルマいまでも確実にカタログ値は出るなと確信出来ました。ブレーキのタッチも制動力も現代の水準を十分上回っているなと実感できました。1967年2月号のCARグラフィックでDavid Phipps氏がいっている「このマキシムに達するのは非常にたやすいであろうと感じた。」というカタログ値は225Km/hです。
1967年といえば名神高速は全通していたと思いますが、東名高速はまだ全通したかどうかという時です。この時67Sに乗れた人は20人程度だと思いますが、どう感じたでしょうか?、おそらく当時の国産車とあまりに違うことにカルチャーショックを受けると同時に、どう説明しても誰にもこのクルマのことはわかってもらえないと思ったことでしょう。唯一の例外として同じ67Sのオーナーを除いて。
古いクルマに乗る人たちの雑誌がありますが、それを読んでいると古いクルマに乗るということは、当時の性能を理解した上で現代のクルマには遥かに及ばないことを承知で楽しむというように感じられます。例えば、ブレーキは前後ともドラムブレーキでもちろんABSなど無く、性能がどうのではなく、クルマがそういうのものだと理解した上で今のものと違うところをある意味よろこんで、ある意味我慢して乗るのだと。
ナロー(1964年から1973年までつくられたポルシェ911)ははじめから4輪ディスクブレーキ、67Sから4輪ベンチレーテッドになってその径は1989年まで変わりませんでした。73Sに乗っているお客さまからこんな話を聞いたことがあります。高速を200Km/h近くで走行中急ブレーキをかけた時とっさに後ろを見たら、ピッタリついてきていたベンツが左右によれてオカマをほられそうになったのでブレーキを緩めたと。2004年の話です。
ここまでくどくどと説明してきましたが、中古車に乗るっていうことと古いポルシェ、ナローに乗るっていうこととは全く違うのだとご理解いただけましたでしょうか。だからナローはクラシックカーなどとかたずけられないのです。現代でも現役バリバリなのです。だから、M-HOUSEが売っているのは中古車ではなくて、古い年式のポルシェなのです。
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