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ナローポルシェや、M-HOUSEをとりまく色々な事柄を綴った不定期更新のエッセイです
第41話 クルマをパリッとするまで直すといくらかかるか?
BMWの場合(M-HOUSEのSさんの場合)

だいぶ時間がたってしまいましたが、昨年1987年式BMW走行85000KmのE28を一台買いました。
実をいいますとこれと全く同じ年式、同じグレード、同じ色のクルマがもう一台新車からうちにあります。全く同じクルマが2台になってしまう訳で”えっ!!”と思われるかも知れませんが息子に、一台づつ同じクルマに乗るのはどうだろうかと話したところ、面白そうだからいってみようということになりちょっと遠くでしたがBMを見に出かけました。
そのE28は地方の社長さんが大切に乗っておられたようで、私が譲り受けたオーナーの手元に来る数年前までは、ディーラーで整備をされていたなかなか良いクルマでした。私が見た時は、ホイールがミシュランのTRXの入手難からBMW用社外ホイールと普通のタイヤに交換され、サスペンションがローダウンされていました。オーナーにオリジナルパーツは保管してあるのか確認したところ、タイヤとホイールは無いがスプリングはあるとのことでした。正直購入するべきかどうか迷いました。それは、ざっと見積ったこのクルマの修理代、つまりいまうちにあるE28と同じ程度にするための修理、整備の費用がかなりの額になると計算出来たからです。しかし全く同じ年式グレード色のクルマで、私が迷う程度のクルマはそうはないだろうと思ったのでスプリングを貰って東京まで自走で帰ってきました。帰り道ラジオが鳴ったり鳴らなかったりする以外は1000Km近い距離、特別不具合は起りませんでした。
名儀変更を済ませて、昔からの付き合いのBMW正規ディーラーの工場へ持っていきました。自分のうちではポルシェ以外はやりません。餅は餅屋であるということ、勘所も違うし、部品の入手に関する諸ノウハウも違うので信頼できるところに任せるのが一番なのです。私からの依頼ですし、正規ディーラー車なので断られることは無いのですが期限は切らないで欲しいと真先に釘をさされました。
それは、M-HOUSEでも全く同じなので良く理解できました。旧いクルマは本当のところはじめてみないと何にもわかりませんし、はじめたら次から次へと問題が広がっていき途中で投げ出す訳にはいかないので釘をさされるのは当然のことなのです。工場に持ち込んだのが3月末ということもあり、作業の始まったのが2ヵ月後となりました。
始まってみるとお約束通りといいますか、予想外と人はいうのでしょうが、まあ次から次へと出てきました。片側のドライブシャフトの交換、ラバーカップリングジョイントの全数、ブレーキに関するすべての交換、細かくいえばローター4枚、前後のブレーキパッド、ホース全数、マスターシリンダーの交換、キャリパー4個のO/Hに始まり、ノーマルスプリングへの交換に続き、前後ショックの交換などなど。エンジンミッション関係でいえば、エンジンマウント、ミションマウントの交換、デスビキャップ、ローターの交換に始まり、タペット調整オイル交換(ATも)、さらにアイドルスタビライザ−の交換などなどと出てくるわ出てくるわ、何年も整備していないクルマは見た目は変わらなくても相当問題があるものです。
話しはちょっとそれますが、よくワンオーナー車はいいといいます。買う側がワンオーナーであるが故の行き届いた整備のクルマだと思いがちですが、乗っていないワンオーナー車は、実はこのように大変なのです。
整備も終盤になって、ホイールとタイヤを4本新調して交換しました。もちろんノーマル、TRXタイヤです。
ほぼ修理が終わった頃、このクルマではじめから気になっていたところ、ボディーのペイントの良くないところ、具体的にはフロントフード(100円パンチのための塗装をした?)を塗り直しました。そのついでといっては何ですが、ドアのシ−ルラバー前後左右4カ所と前後ウインドーのメッキモールとシールゴムも交換することにしました。
ここでまた、お約束通りといいますか、予想外と人はいうのでしょうが、大変なことが起りました。正規ディーラーのガラス屋さんのやった作業をみて、即座にこれ何かおかしくないですかとフロントにいいました。

「確かに収まり悪いですね」
と古くからの付き合いのフロントの彼がいいました。
「申し訳ないけどやり直してくれる?」
と私がいうと、
「そうですね」
と理解を示してくれました。

私はどうも気になるので再作業の日、立ち会いました。見ているとどうも無理無理作業しているようにしか見えず、くだんのフロントマンの彼を呼んで見てもらいました。

「この人たちではちょっと無理じゃない?」
と私がいうと、
「確かにそうですね、今日はこれで帰ってもらいます」
とフロントマンの彼がいいました。続けて彼が、
「Sさんどこかいいところご存知ですか」
と聞いてきました。
これには二つの意味があります。ひとつは文字通りもっと上手いところを知らないかという意味ですが、もうひとつはSさんの知っているところでやるから出来はもう、文句(クレーム)つけないでねという意味です。老舗の外車ディーラーは普通こんなことはいいませんが、接着ガラスが主流の中、ゴムシールのガラスを上手にできる人がほとんどいないことも事実です。

M-HOUSE御用達のガラス屋さんに連絡をとってかくかくしかじかと事情を話して、来てもらいました。
早速クルマを見てもらうと、
「これ前後のモールが逆に付いているよ」
と即座にいわれてガクッとしました。それでも作業は始まりました。しばらくして、
「あれー、このフロントの下側のアルミモ−ル、元ものと形が全々違うわ。ベンツでもこの間あったんだけど最近のはどれもダメだね。入らないからから前後逆だと思って入れたんだ」
ととんでもないことをいいはじめました。困ったことに、はじめ取り替える前に付いていた同じパーツは正規ディーラーのガラス屋さんがもう使わないと思って、壊して取外してしまったのです。しまったと思いました。うちのこのガラス屋さんは使わないとしても、丁寧に外してくれるのに、はじめからうちのガラス屋さんで押し切ればよかったなと。でも後の祭り。それ以外にも、シールゴムの形、断面が元ものと明らかに違いモールのパーツが入らないことも判明しました。四の五のいっていても解決しないので、下側のアルミモ−ルは中古になったとしても正規ディーラーが確保する、ゴムシールは形はおかしいが新品を使う、それに伴って、縁のモールは前側の物を後ろにも使うということで事態の収拾を図ることにしました。作業は大変でしたがM-HOUSE御用達のガラス屋さんは、見事な仕事ぶりを見せてくれました。
普通の人だったら、はじめのところでダメが出せないでしょうし、フロントマンもなかなか取り合わないでしょう、ましてや上手い代わりのガラス屋さんなど知っている訳もないのでしょうから純正パーツの不具合が原因とはいえ、モールが前後逆になったままで終わってしまったでしょう。

それからくだんのペイントを終えて、コーティングをしてもらいました。この新E28はやっと前からあるE28と区別が付かない状態になりました。
今回の修理、整備を簡単にいいあらわせば、普段M-HOUSEがナローにやっていることの量で50%、質で90%をこのE28に実施したといえます。量で50%との意味は内装に一切手をつけなくてよかったことと、エンジンを降ろす等がなかった、ATに手をつけることがなかったということが残りの50%です。質で90%の意味は、オリジナルの塗装に手をつけなくて済んだが、全塗装をした場合に比べて質で10%届かないということです。

さて、全て終了したのが10月の中ごろ、約6カ月半を要した整備、修理のすべての費用、幾らかかかったと思いますか?。60万円、80万円?。いやいや全部で190万円です。これでも量的にはナローの50%です、年式が約15〜20年新しいからです。このESSAYでいっていますが、BM、ベンツの修理代が4〜5ならポルシェは13〜14、15です。もしナローだったら、それを単純に当てはめても約3倍の570万円はかかるということです。

『クルマをパリッとするまで直す』ということはこれほどかかります。このE28の購入を躊躇した訳は、購入金額と整備修理代を合わせたら200万円台の後半になってしまう、冷静に考えたら、他のクルマの購入を考えた方が賢明だとはじめからわかっていたからです。もし賢明な選択をしたいのであればヨーロッパ製中古外車などは考えてはいけないのです。最初から危険に近づいてはいけません。また逆に、旧いヨーロッパ車に気持ちよく、もしくはそのクルマが元々持っていた性能や雰囲気を堪能したいのであれば、最低でもBMWで約150〜200万円、ナローポルシェで約500〜600万円を車輌代の他に覚悟しなくてはいけません。そして、元のクルマの状態が悪ければその分さらにかかるということです。M-HOUSEのSさんの場合を披露いたしました。何かのご参考になれば幸いです。