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ナローポルシェや、M-HOUSEをとりまく色々な事柄を綴った不定期更新のエッセイです
第58話 ポルシェな人々 その30
ポルシェにまつわる様々な人々の、本人にとっては誠に真剣な、はたから見ていると実に楽しい愉快な生態をシリーズでお話ししましょう。

9年ほど前のある出来事ーその1

73Tに乗った方が尋ねてこられました。それは10年ほど前に一度拝見したことのあるクルマでした。
「Sさんわたし覚えています?」
「はい、しばらくです」
「クルマきれいにされましたねえ」
「ええ、あの時に言われたことは全部やりました」

仮にAさんとしておきます。私がAさんにお会いしたのはある自動車雑誌の売ります買いますのコーナーにそのクルマが出ていて、買うつもりで見に行った時でした。その時は金額が折り合わず成立しなかったのですが、その後2人でお茶を飲んでいろいろと話をしました。当時他の人もそうだったのですが、皆私とナローの話をするのが楽しいらしく、その時もずいぶんと話し込んでしまいました。今になって考えてみると、ナローの話ができることは皆さんあまり無かったのかもしれません。
売り買いのことはとうにどこかにいってしまい、話が盛り上がって勢い73Tの要修理箇所、オリジナルの話になりました。

「Sさんだったら、わたしのクルマどこを直します?」

と聞かれて、私が買ったらやるであろう箇所を申し上げると

「わたしが気になっていたところもあるけど、考えもしなかったところがいっぱいあるや」

といわれました。そして、

「あとオリジナルでないところがあったら教えてくれますか」

といわれました。この時も言って良いのか何度か確かめてから話ました。

「いやーそんなにあるんですか。ちょっとがっくり来ました」

と言われました。そんな経緯がありました。
その時から9年経ったわけです。クルマは確かにその時指摘したところはすべてオリジナルに直っていました。Aさん頑張ったなと思いました。

「クルマを直す過程で随分勉強になりました。言われた時は何を言っているのかよくわからないこと、なぜそんなことを言うのか理解出来なかったことが、だんだんわかってきました。あの時ビシッと言っていただいてほんと良かったです」

あの時ビシッとというようなつもりは全然なかったのですが、そう聞こえたんだな−と思いました。そして、ふっと11年前のことを思い出しました。

続く


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