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ナローポルシェや、M-HOUSEをとりまく色々な事柄を綴った不定期更新のエッセイです
第64話 ポルシェな人々 その36
ポルシェにまつわる様々な人々の、本人にとっては誠に真剣な、はたから見ていると実に楽しい愉快な生態をシリーズでお話ししましょう。

希少なクルマを買うということの究極の責任 ー2

いつも忙しいと言っているNさんまた週末にやって来ました。
Nさん「こんにちわ」
S代表「いらっしゃいませ」
Nさん「この間のESSAYいい事書いてあったね」
S代表「ありがとうございます」
Nさん「どなたかからいただいたという言葉良かったですね。『ある骨董のEXPERTの言葉ですが、骨董品を持つと言うこと、『と言うより一時期それを預らせてもらうこと』、は生活の中でそのものの中にある品格に触れ、それによって人生の目的である己の品格を高めることである。』
というやつ」
S代表「そうですね、本質をずばり言い当てています」
Nさん「言っている意味は全体として良くわかるんだけど、具体的に言うとどういうことなんだろう」
S代表「えっ!!!、それがわかってNさん言ってくれているんじゃないの」
Nさん「いやわかるんだけど、具体的に言ったらですよ」
S代表「そうですかそれでは、ちょっと長くなるかも知れませんけど、『具体的』にお話しましょう。人は所謂骨董、お茶碗や掛け軸、絵画というようなものが買えるようになって、買いはじめるとだんだんと良いものが欲しくなってきます。また、良いものがどういうものかもわかってきます」
Nさん「うん」
S代表「そうなってくると、自分でも良いものに手を出したくなるし、周囲も高いけど良いものを薦めてきます」
Nさん「うん」
S代表「そこで、まず躊躇するのが本物か偽者かということですが、今日は本物という前提でお話させてください」
Nさん「うん」
S代表「次に悩むのが金額です」
Nさん「うん」
S代表「こんな高いもの買って良いんだろうか。と悩むんですよ」
Nさん「うん」
S代表「まあ、だいたいそれまでの自分の使ってきた金額から見るとかなり大きくなっていて、まともな方はそこが第一のハードルなんです」
Nさん「うん」
S代表「まあ、いろいろ逡巡して金額のハードルを越えると、次に来るのは、これ自分が買って良いんだろうかという思いなんです」
Nさん「うん」
S代表「自分がこれの所有者になって良いんだろうか、相応しいのかと悩むんです」
Nさん「うん」
S代表「そして、散々悩んだ挙げ句、えいっと一気に、もしくは確たる自信の無いままそのハードルを越えるんです」
Nさん「うん」
S代表「そうやって、晴れて所有者になる訳ですが、そこで終わらないのです」
Nさん「えっ、それってどういうことですか」
S代表「それらを持ってみると、使ってみたい飾って見たい、そして出来るだけ楽しみたいそのために買ったんだからと人は考えるんです」
Nさん「うん」
S代表「でも、良いものであればあるほど制約があるんです。例えば、掛け軸なら日にあたって褪色する黄ばむ、もしくは飾っていたことで何かが飛んでついてしまって取り返しのつかないことになってしまうなどのリスクから思うように飾っても置けないのです、実際は」
Nさん「ふーん」
S代表「そうなってくると、持っているのが苦しくなってきて、手放そうかなとなってくる訳です」
Nさん「うん」
S代表「そこで手放してしえば、その人はその物が持っている『力』に負けてしまった訳で、その人に持ちこたえる力量がなかったとうことが明らかになってしまう訳です」
Nさん「うん」
S代表「そこまで乗り越えてはじめて冒頭の言葉になる訳です」
Nさん「そうか」
S代表「そうです、それらを乗り越えて所有出来ている持ち続けているということが、人格といいますかその人の品格を高めることだということなんです」
Nさん「そうか」
S代表「それからもうひとつ付け加えると、人はいつかは亡くなる訳ですし、諸事情で、それは必ずしも否定的なものばかりではなくて、それらを手放さなくてはならない時が来ます。その時まで、それらにキズを付けたり、手を加えたりしないで、あるがままに持っているということがいかに難しいことであり凄いことであるか、それを『と言うより一時期それを預らせてもらうこと』と言うのです」
Nさん「ふーん」
S代表「まあ、ナローで言ったら、すばらしいナローを手に入れたら、自分がどんなにしたくても取り返しがつかなくなるような改造はしないで、そのクルマが持っている良さをそのまま維持するといったことでしょうか、それ凄く難しいんですけどね」
Nさん「いやー、最後の話は分かり易かったわ」
S代表「言葉で説明すると今言ったようなことなんですけど、その場に自分が立ったらそれは苦しいですよ。だから、冒頭の言葉になる訳ですし、それらを乗り越えられたら、この言葉が適切かどうかわかりませんが、人間として一回り大きくなったと言うか品格が上がったと言っても良いのかも知れません」
Nさん「うん」
S代表「今日はもう遅いので、こういったことの入門者と人生卒業間近か人のことはまた日を改めてにしましょう」
Nさん「ところでSさん」
S代表「何ですかNさん」
Nさん「ということはですよ、Sさんはそういう苦しいところを乗り越えきた、一回り大きくなった品格の上がった人ということでしょう」
S代表「うっ・・・・・、いやいやまだまだこれからもっと先ということです」
Nさん「いやー、苦しいなあ」
S代表「そんなことはないです。今日はもう遅いので閉店です」
Nさん「まっ、そういうことで今日は帰りましょうか」

パチン(スイッチOFFの音)、ガラガラ(シャッターを閉める音)


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